抗加齢とエネルギーバランス

 

1)エネルギーの必要量
 「第6次改定日本人の栄養所要量」が、平成11年に発表された1)。これは、健康人を対象として、国民の健康の保持・増進、生活習慣病予防のために標準となるエネルギー及び各栄養素の摂取量を示したものである。生活活動強度を、低い、やや低い、適度、高いの4段階に分け、平均的な体格の日本人について、性と年齢に応じた栄養所要量を表1に示す。加齢とともにエネルギー必要量が減少していく。
 なお、医療や栄養指導の現場では、身長から標準体重を求め、労作の程度を考慮して1日の適正熱量を求めている。その方法を表2に示した。

 

2)エネルギーバランス
 三大栄養素によるエネルギーバラ ンスは、英語の頭文字をとって「PFCバランス」と呼ぶ。適正な比率として知られているのは2)
・糖質(Carbohydrate, C)  5560
・タンパク質(Protein, P)  1520
・脂質(Fat, F)       2025
である。簡単に601525でもよい。重量ではなくエネルギー比率であることに注意する。1日熱量が1800kcal、脂質摂取が25%の場合、脂質は450kcal/日。9kcal/gで割算し、脂質摂取量が50g/日となる。なお、実際の食物では不純物があるため、1gあたり7 kcalで計算する。

 

3)栄養素のバランスと注意点
1)炭水化物(C):穀物に加えて、野菜や果物にも炭水化物が多い食品があることに留意する。
2)蛋白質(P)1520%とする。一般には、体重1 kgあたり1.01.5g/日の蛋白質を摂取し、運動選手はもっと多くする。年齢に応じた蛋白質の所要量を表3に示した。
3)脂質(F):本邦では、食生活の欧米化により脂質の摂取の過剰傾向にあり、25%以下に抑えたい。各年齢の脂質所要量を表4に示した。
4)ビタミン・ミネラル:野菜、海藻などには、エネルギーがほとんどないが摂取が必要である。日本人は1日に300g(約80kcal=1単位)の野菜を摂取しているとされ、通常は特に制限せず多い摂取が望まれる。
5)カルシウム:供給源として重要なものが牛乳や乳製品である。3大栄養素(PFC)が相当量含まれてバランスが良いが、エネルギー比ではF50%以上となるので過剰摂取に注意する。
6)食物繊維:1日に2025g程度の摂取が望ましい。消化酵素で消化されるかどうかで、不溶性と水溶性に分類される。前者は腸管内で水を吸収して膨張し、ぜん動を活発にし便秘を予防する。後者はゲル状となり、糖の吸収速度を遅くして食後の急激な血糖値の上昇を防いだり、血中コレステロールの上昇を抑制したりする。

 

4)ポイントとなる脂質の摂取
 本邦における脂肪エネルギ-比率について、若干歴史を振り返る。戦後に同比率が10%以下から高くなると、脳出血や感染症が低下した。疫学的に15%以下では脳出血が増加し平均余命の低下が報告され15%以上が好ましいという3)
 1520%では、相対的な炭水化物の摂取増加で血中の中性脂肪が増えたり、食塩摂取の増加でカルシウム不足をもたらすことがある。このため、脂肪の適正摂取量の下限値は、生活活動強度~中等度の成人で20%と考えられている。
 同比率が30%以上の欧米では、心疾患の死亡が多い。30%を超えると耐糖能異常や高脂血症が増し、動脈硬化のリスクが増大する。国民栄養調査(1995)の平均的な食品構成は、炭水化物57.6%、蛋白質16%、脂質26.4%である2)。現在も26%を超えており、抑制が望ましい。
 飽和脂肪酸(S)、一価不飽和脂肪酸(M)、多価不飽和脂肪酸(P)の比率について、P/S=1が有力とされてきた。Mの摂取が推奨されるが、実際Mの供給源は限られる。第6次改定では、望ましい摂取割合を「過剰摂取しがちな『飽和脂肪酸』を抑えるべき」という意味で、S:M:P3:4:3としている4)。この比率は平成6年の5次改定時には1:1.5:1と記載され、実際には1:1.01.5:1としても差し支えない。日本人は通常、動物:植物:魚介=5:4:1で摂取している。
 n-6/n-3比の問題は複雑である。世界では栄養摂取に大きな格差があり、欧米諸国では4~10または5~10を推奨している。だが、この数値は各国の実状に全く当てはまらない。現実には10以上で、4まで下げるのは不可能だ。日本では長年ほぼ約4.2に保たれており、従来特別に大きな問題がなかった。少なくとも不都合な証拠がなく、妥当であろうと考え、容易に実践可能な範囲の数値なのである。以上から、n-6n-3の比は4:1程度が適当とされている4)

 以上のポイントをまとめ、下記に示す1)
1)動物性:植物性:魚介類= 5 4 1
2)S:M:P摂取比率= 3 4 36次改定)
     同上    = 11.515次改定)
3)n-6n-3多価不飽和脂肪酸= 4 1

 

5)アンチエイジングの影響
 老化のメカニズムは、便宜的に大別すると
1)遺伝的要因
2)細胞の酸化
3)ホルモンの分泌バランス、
 となる5)。2)では、活性酸素・フリーラジカルが大きく関与し、細胞や身体が「サビていく」のである5)。組織の抗酸化能(SOD/SMRの活性化)は寿命に比例して大きくなり、これから老化の酸素ラジカル仮説が生まれた。これらが代謝に影響を及ぼしていく。
 3)では、抗加齢作用を有する成長ホルモン、インスリン、テストステロン、DHEA、甲状腺ホルモンなどが代謝調節因子として働く。
 摂取カロリーの制限により、老化が遅延し寿命が延長することが知られる。食物は生体エネルギーであるATPに変換されたり、逆に中性脂肪や多糖として貯蓄され必要時に熱に変換される6)。後者にはミトコンドリアの脱共役タンパク質(UCP)が関与する。UCP1は褐色脂肪組織のみに発現する熱産生タンパク質であり、人では出生直後から加齢と共に消失し成熟期以降はUCP1はほとんど検出されない6)。このように、エネルギー代謝の制御とエイジングとの関わりが、次第に明らかになりつつある。

 

文献
 1) 第6次改定日本人の栄養所要量,http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9906/s0628-1_11.html
 2) 羽倉稜子, 常田裕子, 本田佳子. 食事療法. 糖尿病診療マニュアル. 日本医師会雑誌特別号, p92-103,2003.
 3) 松沢佑次. 栄養と疾患. 代謝疾患1. 肥満症, 臨床栄養. 最新内科学体系6. 中山書店, 東京, 1995., p3-11.
 4) 板東 浩. 高脂血症に対する栄養学. 治療85(11): 2931-2937, 2003.
 5) 米井嘉一. 加齢・老化のメカニズム. 抗加齢医学の基礎. 日本抗加齢医学研究会監修, 2001.p47-52
 6) 森 望, 古山達雄, 山下 均. エネルギー応答、ストレス応答から老化制御へ.日老医誌40: 578-581, 2003.

       表1  生活活動強度別 エネルギー所要量 kcal/日)

年齢(歳)   I (低い)   II(やや低い)  III (適度)  IV (高い)
        男  女    男  女   男  女   男  女    
 

0~() 110120kcalkg
6~() 100kcalkg
1~2 1,050 1,050 1,200 1,200
3~5 1,350 1,300 1,550 1,500
6~8 1,650 1,500 1,900 1,700
9~11 1,950 1,750 2,250 2,050
12~14 2,200 2,000 2,550 2,300
15~17 2,100 1,700 2,400 1,950 2,750 2,200 3,050
2,500
18~29 2,000 1,550 2,300 1,800 2,650 2,050 2,950
2,300
30~49 1,950 1,500 2,250 1,750 2,550 2,000 2,850
2,200
50~69 1,750 1,450 2,000 1,650 2,300 1,900 2,550
2,100
70以上 1,600 1,300 1,850 1,500 2,050 1,700

・なお、妊婦では+350 kcal、授乳婦では+600 kcalとする。
・生活活動強度が「I(低い)」または「II(やや低い)」に該当する者は、日常生活活動の内容を変えるかまたは運動を付加することによって、生活活動強度「III(適度)」に相当するエネルギー量を消費することが望ましい。
・食物繊維の摂取量は成人で2025g(10g/1,000kcal)とすることが望ましい。
・糖質の摂取量は総エネルギー比の少なくとも50%以上であることが望ましい。

        表2  適正カロリーの算出法

労作の程度     内容        職種例      カロリー数

安静    1日中ベッド上の生活  入院患者など     2025
軽い    主に座っての作業    一般事務職、管理職  2530
中等度   軽い運動や軽作業    教員、加工業、製造業 3035
やや重い  一定時間以上の肉体労働 漁業、農業、建設業  3540
重い    常に身体を動かす作業  プロスポーツ選手など 40

1)標準体重を求める。標準体重(kg)=身長(m) X 身長(m) X 22
2)労作の程度から2040のカロリー数(kcal/kg標準体重)を決定する。
3)標準体重 X カロリー数 を計算して求める。
4)例として160cm80kg、教員の場合は、1.6 x 1.6 x 22 = 56.3
  56.3 x 30 = 1689, 1700kcalとなる。現在の体重80kgは用いない。

表2の幅をを小さくしたほうがよい場合には、下記のようにしてください。

        表2  適正カロリーの算出法

労作     内容       職種例     カロリー数

安静   1日中ベッド上 入院患者など     2025
軽い   主に座った仕事 一般事務職、管理職  2530
中等度  ほぼ軽い作業  教員、加工業、製造業 3035
やや重い 肉体労働が続く 漁業、農業、建設業  3540
重い   常に身体の動作 プロスポーツ選手など 40

1)標準体重を求める
 標準体重(kg)=身長(m) X 身長(m) X 22
2)労作の程度からカロリー数(kcal/kg標準体重)を決定。
3)標準体重 X カロリー数を計算して求める。
4)160cm80kg、教員の場合、1.6 x 1.6 x 22 = 56.3
  56.3 x 30 = 1700kcal。現在の体重80kgは用いない。

  表3 蛋白質所要量

()  蛋白質所要量(g/)
         男  女

0~(月) 2.6/kg
6~(月) 2.7/kg
1~2     35
3~5     45
6~8     60 55
9~11 75 65
12~14 85 70
15~17 80 65
18~29 70 55
30~49 70 55
50~69 65 55
70以上 65 55

妊婦 +10g、授乳婦 +20g

  表4 脂質所要量

   脂肪エネルギー比率
(歳)     (%)

0~(月)    45
6~(月) 30~40
1~17 25~30
18~69 20~25
70以上 20~25
妊婦、授乳婦 20~30

 

 

 

 

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